夜中の3時に「もしも」のボタンを押してみた話

うちの会社、変なシステム作っちゃったんだよね。
きっかけは去年の夏だったと思う。エアコンが効きすぎたオフィスで、開発チームの田中が「安否確認システムって、確認してからじゃ遅くないですか」ってぼそっと言ったんだ。最初は何言ってんだこいつって思ったけど、よく聞いてみたら妙に腑に落ちる。災害が起きてから「大丈夫ですか?」って聞くより、普段から「まだ大丈夫です」って信号を送り続けて、それが途絶えたら何かあったって判断する方が理にかなってるじゃんって話。
で、そこから話が転がって転がって、今度は「じゃあその人が本当にいなくなったら、大事な情報ってどうやって引き継ぐの?」って議論になった。個人事業主の知り合いが何人かいるんだけど、みんな口を揃えて言うのが「取引先のリストとか、サーバーのパスワードとか、自分しか知らない情報が山ほどある」ってこと。エンディングノートに書いておけばいいじゃんって最初は思ったけど、そういう問題でもないらしい。書いたノートをどこにしまったか忘れるし、情報は日々更新されるし、何より紙に書いたパスワードなんて誰かに見られたら終わりだし。
そこで思いついたのが、安否確認とエンディングノートを合体させるっていうアイデア。生きてる間は定期的に「まだ元気です」ボタンを押してもらって、それが一定期間途絶えたら、あらかじめ登録しておいた情報が自動的に指定した相手に届く仕組み。情報は全部暗号化して保存するから、うちの社員ですら中身は見られない。本人が設定した条件が満たされて初めて、指定された人だけが開けるようになってる。
試作品ができたとき、私自身で試してみたんだよね。深夜3時。なぜか無性に試したくなって。
テスト用のアカウントに「取引先リスト」「銀行口座の情報」「サーバーの管理者パスワード」みたいな適当な項目を登録して、受け取り先を自分のサブアドレスに設定した。で、「72時間応答がなかったら送信」っていう条件にして放置してみた。最初の24時間は何も感じなかったんだけど、48時間過ぎたあたりから妙にソワソワしてきて。まだ自分は生きてるのに、システムの中では「もしかしたらこの人いなくなったかも」ってカウントダウンが進んでるわけ。で、72時間ちょうどになった瞬間、メールが届いた。件名は「大切な情報をお預かりしていました」。開いてみたら、自分が登録した情報が全部復号化されて、きれいに整理されて表示されてる。
なんか、背筋がゾクッとしたんだよね。いい意味で。
ちなみに、この間スーパーで買ったバナナが3日で真っ黒になったんだけど、あれって保存方法が悪かったのかな。関係ないけど気になってる。
話を戻すと、このシステムの面白いところは「情報の鮮度」を保てることなんだ。普通のエンディングノートって、書いた瞬間から情報が古くなっていくじゃん。去年書いた銀行口座の情報が今年には使えなくなってたり、新しい取引先が増えてたり。でもこのシステムなら、生きてる間はいつでもログインして情報を更新できる。そして更新した情報は全部暗号化されて、また次の「もしも」のときまで誰にも見られることなく保管される。
個人事業主や中小企業の社長さんって、会社の情報と個人の情報が渾然一体になってることが多いと思うんだよね。私物のスマホに仕事の連絡先が入ってたり、自宅のパソコンに顧客データがあったり。そういう人たちにとって、「自分に何かあったとき」の準備って、家族のためだけじゃなくて、取引先や従業員のためでもあるわけで。でも、そんな重たいこと考えながら毎日過ごすのしんどいじゃん。だから月に一回とか、週に一回とか、軽くボタン押すだけで「まだ大丈夫です」って伝えられるシステムがあったら、ちょっとは気が楽になるかなって。
実は開発中、セキュリティの専門家に何度も怒られた。「暗号化のアルゴリズムが甘い」とか「鍵の管理方法が不十分」とか。正直、最初は「そんな細かいこと」って思ったけど、よく考えたら他人の人生が詰まった情報を預かるわけで、適当にやっていいはずがない。結局、暗号化の仕様を3回作り直して、外部の監査も受けて、ようやく「これならいいんじゃない」って言ってもらえた。今使ってる暗号化技術は、銀行のオンラインシステムと同等レベルらしい。らしい、っていうのは、私自身が技術の詳細を完全には理解できてないから。でもチームのエンジニアたちは自信満々だったから、たぶん大丈夫。
で、このシステムの一番気に入ってるところは、「自動的な情報継承」っていう発想なんだよね。自分で「そろそろ危ないな」って思ったときに手動で送信することもできるんだけど、基本は自動。つまり、意識を失ったり、突然のことがあったりしても、ちゃんと情報は届く。人間って、自分の死を前提に行動するのが本能的に苦手な生き物だと思うんだ。だからこそ、システムに任せちゃう。生きてる間は生きることに集中して、「もしも」のときはシステムが粛々と仕事をする。
正直、最初は「こんなの需要あるのかな」って半信半疑だった。でも実際にプロトタイプを何人かの経営者に見せたら、反応が予想以上に良くて。ある社長さんは「これ、うちの顧問税理士に渡す情報も登録できる?」って即座に聞いてきたし、別の人は「従業員が5人しかいない会社だけど、みんなで使いたい」って言ってくれた。
今、オフィスの壁には「楽しくなければ仕事じゃない」って手書きのポスターが貼ってある。新入社員が勝手に作って貼ったやつなんだけど、誰も剥がさないからそのままになってる。エンディングノートとか安否確認とか、テーマとしては重たいんだけど、作ってる私たちはけっこう楽しんでる。「もしもボタン」のデザインをどうするかで2時間会議したり、通知メールの文面を「重すぎず軽すぎず」に調整するのに1週間かけたり。
結局のところ、このシステムが本当に役立つ日が来ないのが一番いいんだけどね。でも、いつか必ず来る「もしも」のために、今できることを今やっておく。それを面倒くさくなく、むしろちょっと楽しくできたらいいなって思いながら作ってる。
今日も誰かが「まだ大丈夫です」ボタンを押してくれてるといいな。
組織名:株式会社スタジオくまかけ / 役職名:AI投稿チーム担当者 / 執筆者名:アイブログ
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