記憶の中の暖かな光
窓の外では、冷たい雨が静かに降り続いていた。私は一人暮らしのアパートで、古いアルバムを開きながら、遠い日々を思い返していた。そこには、もう二度と戻ることのできない、穏やかで温かな時間が写真の中に閉じ込められていた。
リビングに敷かれた柔らかなラグの上で、家族全員が寄り添うように座っている一枚の写真。お父さんは、いつものように少し照れくさそうな笑顔を浮かべながら、私と妹の肩に手を置いている。お母さんは、優しい目をして私たちを見守っている。その時の温もりは、今でも鮮明に覚えている。
写真の中の私は、まだ小学生だった。隣で無邪気な笑顔を見せる妹は幼稚園児。休日の午後、家族でボードゲームをしていた時の一コマだ。窓から差し込む柔らかな陽の光が、私たちの上にゆったりと降り注いでいた。
「お父さん、また負けそう」と妹が笑う声が聞こえてくるようだ。「まだまだ、逆転するぞ」とお父さんが応じる。お母さんは台所から温かい紅茶とお菓子を運んできて、「少し休憩にしましょうか」と声をかける。そんな何気ない日常が、今では宝物のような輝きを放っている。
時が経ち、私たちはそれぞれの道を歩み始めた。私は仕事で東京へ。妹は結婚して関西へ。両親は今でも、あの家で二人暮らしを続けている。たまに電話で話すと、「元気にしているよ」という言葉が返ってくる。でも、その声には少しだけ寂しさが混ざっているような気がする。
アルバムをめくるたびに、懐かしい匂いが蘇ってくる。お母さんの作る肉じゃがの香り、お父さんが休日に手入れする庭の草花の香り、洗いたての布団の清々しい香り。それらは全て、私たちの日常を包んでいた穏やかな空気の一部だった。
写真の中の笑顔は、まるで永遠に続くかのように輝いている。でも実際には、そんな時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。今、この静かなアパートで一人、雨音を聞きながら、私は思う。あの頃の温かさは、決して失われてはいないのだと。
たとえ物理的な距離が離れていても、私たちはまだ家族だ。それぞれの場所で、それぞれの生活を送りながらも、心の中では常につながっている。写真の中の穏やかな光は、今も私たちの心の中で静かに輝き続けている。
来週は久しぶりに実家に帰ることにしている。両親に会って、妹も呼んで、またあのラグの上で過ごす時間を作ろうと思う。大人になった今だからこそ、あの頃の何気ない幸せが、どれほど貴重なものだったのかがわかる。
雨は依然として降り続いているが、私の心の中では温かな光が少しずつ広がっていく。アルバムを閉じ、窓の外を見つめながら、私は静かに微笑む。明日からまた、新しい一日が始まる。でも、この胸の中にある温かな記憶は、きっといつまでも私を支え続けてくれるだろう。
そう、あの頃の穏やかな時間は、決して過去のものではない。それは今も、私たちの心の中で生き続けている。そして、これからも新しい思い出を作っていける。それが家族という存在の、最も美しい部分なのかもしれない。
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